あまねく人にイノベーションを!
こんにちは。

ビジネスモデルキャンバスとバランス・スコア・カード、すなわち、BMCとBSCをもし連結させて経営で活用するとするならどういう方法が考えられるか…については、Part1で一案を提示させていただきました。
Part2の今回は、「そもそも、BMCとBSCを連結させた一連のシステムとして活用する妥当性・効果性」について、Part1において同様、あくまでも個人的所見ではありますが、述べさせていただきます。

結論から申し上げまして、私はこれに関しては、ポジティブにはとらえていません、というか、どちらかというとネガティブスタンスです。
それは、一連のシステムとして連結させてしまうと、BMC・BSCのどちらかの、場合によっては、両方の長所が減じてしまう恐れが高いと思うからです。
BMCとBSCの最大の違い−スピード感の違い−故の懸念です。

ビジネスモデルキャンバスの長所の中で、最大のものは、
●スピーディかつ簡単にビジネスの進化ストーリー=全体戦略をデザインできる
でしょう。
一方、バランス・スコアカードの長所の中で、最大のものは、
●トップから組織末端までの体系的な方針マネジメントが行いやすい
でしょう。

方針マネジメントは当然のことながら、方針を知らしめるだけでなく、組織末端に到るまでの「行動のマネジメント」が必須となります。当然のことながら、方針を行動に反映するまでは、相応の時間が必要となります。人・組織の根底にある「変化忌避性」を考慮すると、その時間は、決して軽視できるものではありません。
そもそも、全社展開のための「戦略マップ」をつくること自体の労力・時間も馬鹿にならないことは容易に推測できますし、それがネックとなって現場に浸透しづらいという生の声を耳にすることは少なくありません。

今仮に、BMCの機動性を活用し、どんどん新たなイノベーティブな戦略をデザイン、その都度戦略マップを書き換え全社で体系的展開し、KPIで行動と成果のマネジメントを行ったとしたら…現場の混乱は必至でしょうし、現実的には極めて困難。

実は、私自身もベンチャー企業の経営企画担当取締役として現場で活動していた10年間の最後の方で、自社においてBSCの導入・展開を考えたことがあります。
当時の私は、「マネジメント」という観点からすると、BSCは最高のマネジメントツールだと思ったからです。

が、断念しました。それは、この「労力・時間」というコストが、機動性・柔軟性を命とするベンチャー企業という組織にあわないばかりか、逆機能を引き起こすおそれがあったからです。
BSCでは戦略の朝令暮改は好ましくなく適応も困難ですが、ベンチャー企業においては戦略の朝令暮改が前提なのです。
おそらく、BSCが中小・小規模企業においてあまり浸透が見られなかったのも、おそらく似た事情が少なからず影響してのことでしょう。
そもそも、わざわざ労力と時間をかけて戦略マップをつくって全社に指示し管理せずとも、他のシンプルな方法で戦略の実行は十分可能なわけです。
現場の経営企画担当役員だった頃はまだBMCは日本では知られていなかったわけですが、今であれば、わざわざBSCを使わずとも、BMCを使って「戦略デザインと実行」を直結させた方がベターでしょう。

では、大企業においてはどうなのでしょうか?
大きな組織においては、方針の全社的管理ツール・メソッドとしてBSCを活用するメリットは、中小企業に比較して、確かに大きなものがあると思われます。
ただし、その前提は、その組織の置かれている環境が、比較的安定しているということが前提でしょう。
その場合は、ビジネスモデルキャンバスを使っての、「スピーディーな戦略の革新(少なくとも検討・立案)」が、そもそも必要かというと・・・たぶん、さほど重きをなさないかと・・・、となると、BMCとBSCを一連のシステムとして連結させる必然性は特段ないということになります。

逆に、置かれている環境が、組織に「分散型」であることを求める場合は、BSCによるマネジメントは、逆機能を生じさせることになる恐れが高まるでしょう。
(ご参考)
『ティール組織』(フレデリック・ラルー氏著、英治出版)
では、BSCは従来は主となってきた、予測・統制/効率的かつ複雑な階層組織が特徴の「達成型(オレンジ)組織」で有効なものとして誕生したと述べられています。

VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)で表現される、多くの業種・業界で組織の「分散型」(多元型、ティール)への移行が必要とされる今、BSCの活用度・効果性は、相対的に低下していくことも予想される中においては、大企業であっても、やはりあえてBMCとBSCを連結させ、一連のシステムとして稼働させる必然性は、私にはあまり感じられません。
むしろ、それぞれに適切なシーンにおいて活用するのが現実的とは思うのですが、いかがでしょうか?

ビジネスモデルキャンバスは、とても懐が深く、様々な他のツール・メソッドと組み合わせて効果的に活用することができます。
私も、フューチャーマッピングやカスタマージャーニーマップ等と連結させることがよくあります。
その際は、BMC、そして、組み合わせるツール・メソッドそれぞれの本来の目的、誕生した時代背景等の「そもそも」部分をきちんと把握した上で取り組むことが、とても重要でしょう。
また、その場合も、BMCのあのシンプルな構造自体には、あまり加工を加えない方がいいとも思います。

以上です。
それでは。